思い会う (拓珠、晶珠前提で珠紀と珠洲・翡翠本編中)



床だから、とか。
寒いから、とか。

理由はいろいろあるのかもしれない。

そんな事を考えながら2度3度寝返りを打ち、珠洲は諦めたように身を起こした。

先程から寝ようとしているのに、目を閉じても、体を横にしていても一向に眠気は来てくれなかった。

体は疲れ切っている自覚があるのに、眠れないイラつきだけが逆に募っていく。
姉の手先からの襲撃、怪我を負った晶。
これからやろうとしていること。

「…緊張、してるのかな…」
一筋の明かりすらない場所へぽつりと呟いたつもりだったその時。

「眠れない?」
心配したような、柔らかな声に、珠洲は驚き視線をやった。

「ごめんね、驚かせちゃったね」
「い、いえ…」
驚いたことを慌てて取り繕うように、珠洲は大きく手を振る。

いくら光がなく、いくら静かな場所とはいえ、珠紀がすぐ側で寝ていることを失念していたのは珠洲のほうだ。
謝られて気まずい表情で俯けば、珠紀も小さく苦笑する。

「やっぱり、落ち着かないよね」
そして、先程と同じ調子で問いかけられた言葉に、珠洲は素直に頷いた。

「もし良かったら、少し話をしようか。話すだけでも、楽になるかもしれないし、退屈で眠くなっちゃったら寝ていいからね」
珠紀の言葉に、ようやく珠洲は僅かに表情を緩ませ。

「…気持ちが通じ合うって、出来るんでしょうか…」
けれどすぐに伏せられて、小さな声が呟かれた。

「どうしてそう思うの?」
続きを促すような珠紀の声に、珠洲はゆっくりと考えを巡らせていく。

「気持ちを通じ合わせる事が大事だって言われて。私と晶の事を考えたんです」
珠洲が思い出すのは今までの事。

「晶は、私のために命をかけてくれています。そして私は玉依姫で…玉依姫にはやる事があります」
力がないのに守ろうとしてくれた晶と、もういなくなってしまった母親と同じ役目を持つ自分。

「私は、それが守護者と玉依姫の関係なんだと教えられたんです。そうする事が正しくて、そうしなきゃいけないと私も思ってて。でも、それは間違いなんでしょうか?私には…わかりません」
今までの自分の姿と、珠紀たちの姿を照らし合わせて、珠洲は更に気落ちした気分になった。

季封村から来たという玉依姫と守護者の青年。
支えあい、思い合い、気持ちが通じているような2人。

けれど、自分と晶はそうは見えないだろう。

少なくとも、自分は珠紀のように落ち着く事もできなければ、玉依姫としての力もない。

このままでいい訳がないとわかりつつ、因習が自分達を縛っているのがわかる。
それに追い詰められて、焦っているのがわかる。
落ち着く事のできない状況での判断に、自信等もてるはずもなかった。

どんどん項垂れていく自分を自覚しながらも、珠洲は頭を上げる気力を失いつつあるその時。

「情けない話をするとね…私たちもそうだったから」
苦笑した珠紀の声に、珠洲はゆるりと視線だけをあげた。

「本当は偉そうな事なんて言えないの。力がなくて悔しくて、情けなくて、傷ついていく守護者達が悲しくて」
その表情が今の自分と重なって、珠洲は自嘲が込められた珠紀の笑みを見つめる。

「あくまで私たちの経験だけど、それは間違いだったから。相手を守りたかった。相手に幸せになってほしかった。そのためになら…命なんておしくないと思った。相手のためなら…死ねると思った」
「私だって、晶に幸せになってほしいし、傷ついてなんてほしくないんです。そのためなら…」
「でも、ダメだったの」
しかし、珠紀の言葉に同調した途端に返ってきた否定の言葉に、珠洲は再び気落ちした。

「ダメ、なんですか?」
「私達は、ね」
気落ちした珠洲に対して、落ち着かせるように珠紀は頭を撫でる。

「覚悟に偽りなんてなかったのよ。私達は、2人とも死んでたかもしれなかった。でも、相手のために死んでもいいを言い訳に諦めちゃだめなの。それって、やけっぱちになってるって事だから」
「今の晶みたいに?」
「そうね。だから、今のあなたたちを見てると思い出すの」
小さな苦笑を浮かべるも、それを消して珠紀は真剣な表情で珠洲を見つめた。

「いろんな要素があって、色んな人に助けてもらって。2人で戻ってきたくて、だからそのために2人で頑張ろうって決めて。私達は、ここにいる。死ぬはずだったのに、ここにいる」
真剣な表情で珠紀は珠洲の両手を取る。
そこから伝わる熱が、珠洲の側に珠紀がいるのを実感させてくれる。
苦難を乗り越えて、生き残った玉依姫。

自分もそうなれるのだろうか…?
もしそうなら…それは希望になる。

「私達は絶対にあなた達の味方だから。だから、諦めないでほしいの。志を同じくして戦えば、それは力になるわ。あなたの側には重森君がいる。重森君の側にはあなたがいる。玉依姫とその守護者との関係であり、絆が大事なの」
力強い珠紀の言葉。

それでも拭いきれない僅かな不安。

「それが、わかるんでしょうか?私と晶にも、それがあるか」
「大丈夫、あなた達なら、きっとわかるし、2人で乗り越えていけるわ」
そうしてふわりと笑い、背中を押してくれた珠紀に、珠洲もようやく笑みを浮かべた。

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翡翠のゲーム中です
拓磨と珠紀との合流後、男女に分かれてからっていう感じです
本当はこの後に珠紀と珠洲の女の子同士の会話やら、入れたいとも思ったのですが、なんだか微妙なので削ってしまいました。
このままの状態の方が締りがよかったので