(蒼黒ネタあり・拓珠)
授業と言う名の拘束も一休みとなる昼休み。
「もう…」
小さく悪態をつきながら、珠紀は階段を駆け上る。
本来ならば同じクラスの拓磨、時折学校に来ている遼と昼食を取るべく一緒に屋上に行っているはずなのに、今日に限って日直の仕事で昼休みが少々潰れてしまった。
屋上にたどり着くと、ドアを開ける前に珠紀は大きく深呼吸。
手にしている手提げ袋の中には、いつもの弁当箱と今日だけ特別な巾着袋。
「一番じゃないかもしれないけど、喜んでくれるかな…」
そして、ドアを開けて声をかけようとした瞬間、
「関係ないだろ!!つーか、まだ引っ張ってたのかよ。繋げるような話題じゃないだろ!」
少し荒げた拓磨の声に、珠紀は開けた体勢のまま首を傾げることとなった。
一目で見てわかるほどの怒り心頭具合である拓磨と、笑いを浮かべる遼と慎司。
慎司の方は何とか堪えようとしているらしいが、遼に至っては笑いを隠す様子すらない。
となれば状況は察するまでもなく。
「遼、いい加減にしなさいよ?」
珠紀は遼を睨みつけた。
「なっ!」
「珠紀か」
突然聞こえた声に驚いたらしい拓磨が振り返るも、遼の笑顔は微塵も引きそうにない。
「拓磨も、遼がこういう性格なの知ってるんだから。突っかかるから返ってきちゃうんだよ?」
「俺が悪いのかよ」
「そうじゃないけど。少し譲歩してあげてほしいというか、大人になってあげてほしいの」
珠紀の指摘に渋い顔をするも、最終的に拓磨は嘆息と共に同意を示す。
「遼も!慎司君も笑ってるし、何したのか知らないけど…」
そうして再び遼へと向き合った珠紀に、
「っ…待った!」
珠紀に制された直後だから、拓磨の反射が一瞬遅れた。
一瞬遅れてしまえば、笑っている遼を止められるはずもない。
「鬼崎が甘党のMだって話をしてたんだ」
投下された言葉に驚く珠紀に、拓磨はがっくりと肩を落とした。
「甘党の?」
「M」
首を傾げた珠紀に遼が補足すれば、
「繰り返すな!」
拓磨が眼光を鋭くさせて全員を睨む。
けれど、一度聞かれてしまった言葉を取り消す事はできなくて。
「どういう事?」
「あのですね…」
慎司による事情説明を、拓磨は不貞腐れた顔で聞き流すよう努力するしかなかった。
「拓磨が甘いものが好きで、女の子の趣味として可愛いわがままなら歓迎って事でいいんだよね?」
「はい」
改めて珠紀の口から言われるのは恥ずかしいのだろう。
頬を赤くして耐えるしかない拓磨の様子に、慎司は小さく笑う。
「的確な表現だろう?」
慎司につられるように遼も笑い、
「勘弁してくれ…」
珠紀から再度発せられた言葉に、拓磨はどうしようもないくらいに肩を落とすしかない。
しかし、
「んー…」
少し考え込んだような珠紀は、何か思いついたように手を合わせた。
「やっぱりそうなんだよ」
「俺達の意見が正しいだろ?」
たどり着いた自身の答えに満足するように笑う珠紀に遼は同意を求めるも、返ってきたのは彼らにとっては少々意外な答え。
「やっぱり拓磨は面倒見がいいんだね」
「え?」
拓磨にとっても意外な答えに顔を跳ね上げれば、珠紀の綺麗な笑顔に出会う。
「だって、わがまま聞くって大変だと思う。それでも拓磨は私のやりたい事やれるように考えてくれるし」
自身のいつもの様子に少し反省をしつつ、珠紀は拓磨の優しさを思い出して微かに頬を染めた。
「それに、いつも真弘先輩や遼の相手をしてるでしょ?2人ともちょっと無理とか無茶するところあるけど、それを放置しないでちゃんと制止したりするって事は、ちゃんと付き合ってあげてるわけだし。それって面倒見がいい人じゃないときっと放り出しちゃうと思うの」
だから、と改めて拓磨と向き合い
「いつもありがとう、拓磨。拓磨がいてくれて、すごく嬉しい」
珠紀は笑みを浮かべる。
「そ、そうか…?」
「うん、そうだよ」
にっこりと微笑む珠紀に、拓磨は一瞬たじろぐもその表情をようやく和らげた。
「それにね」
手提げ袋の中を探り始めた珠紀の手元を覗き込めば、拓磨の目の前に小さな巾着が差し出される。
「拓磨はたい焼きが一番って聞いてたからどうかなって思ったんけど…ケーキとかの甘いもの全般好きって聞いてちょっと安心しちゃった」
「なんだこれ」
受け取りつつ、拓磨は弁当には明らかに小さく軽い巾着の中身を想像する。
「昨日、カップケーキを作ったの。…拓磨にあげたくて、甘いものならいつものお礼にもなるかなって」
「そうか…ありがたくいただく」
そして頬を染めた珠紀の姿に、拓磨は嬉しそうに微笑んだ。
結局のところ、
「どうして甘党のM発言からああいう結論に達するんだ?」
「まぁ、見解の違いですから」
甘い雰囲気を出しつつある2人の姿を、遼と慎司はただ見守る羽目になったのである。
* back *
蒼黒公式サイトにあるキャラへの質問コーナーより、ネタをいただきました
拓磨への遼の発言に笑いつつ、「わがままに付き合う」って事はつくづく拓磨は面倒見がいいなぁと
真弘や遼への対応を見つつしみじみ思っていたことでもあったのですが…
遼たちの見解が身内ゆえの気安さなのか、珠紀の見解が盲目で歪んでるのかどちらやらって感じです(笑)