差し伸べられた手 (本編数年後・拓珠前提・真弘×アリア)



「真弘!聞いておるのか」
「ん?…おお」
一瞬ギャップについていけず虚ろに返事をすれば、
「まったく、先程から返事もしないほどぼんやりしているとは…」
不機嫌を隠そうともせず、アリアが真弘の数歩先を歩いていく。

その後姿を見ながら、真弘は頭をかいた。

思い出していたのは、真弘にとっても懐かしい記憶だった。
鬼斬丸の封印がなされて、真弘が高校を卒業した春。
暇をもてあました真弘がまだ学校に残る仲間たちをからかってやろうと考えた時に、ふと見かけた光景。
幸せそうに笑う、拓磨と珠紀の姿。

線引きされた境界線。

自分はもう袖を通すことはない制服。
作り出される2人の空気。
話し声までは聞こえないけれど、楽しそうに笑って、時には怒って。

なのに、全てが幸せそうなのは互いが傍にいるからだとわかっている。
命を懸けて手に入れた恋と幸せ。

その姿が少し辛くて。
何より幸せそうなその2人が嬉しくて。

わかっているからこそ…唇を噛み締め、手を握り締め自分を制御する。

あそこにはもう、入り込む余地はない。
制服を着て高校に通うことも…彼女の唯一になる事も。

仲間だけれど、入りきれない空気に疎外感を隠し切れなくて踵を返そうとしたその時。

その声は響いた。

『カラス!買い物に行くぞ、付き合え』
小さな手が真弘の手を引き、強制的に買い物へと導かれる。

季封村の右も左も知らないたかだか10歳の子どもを放っておくわけには行かなかった。
心配で危なっかしくて見てられなかったから、声をかけられれば構ってやって、何かあったら手助けくらいはしてやってもいいだろうと思っていた。

その呼び名が気づけば名前になり、小さな子どもだったはずの姿が懐かしい高校の制服を身に纏うようになり…それでも未だにその関係は続いていた。



「俺様としたことが付き合いがいいにも程があるよなぁ」
「何か言ったか?真弘」
「買い物に付き合ってやるのをありがたく思えって言ったんだ」
明確に届かなかった言葉を聞き返すアリアの頭を真弘は思い切り撫でる。

「でもよ。わざわざ何でこんなに食材がいるんだ?美鶴がうまいメシ作ってくれんだろ?」
「それはそうだが…いつまでもあそこに甘えているわけには行かないからな」
そうして突如真面目になった表情に、真弘もその手を止めた。

「世話になってりゃいいじゃねぇか。珠紀もお前がいて喜んでんだろ」
「滞在の許可をくれた事は感謝している。しかし、あやつらもいつまでも恋人でいるわけにもいかないだろう?」
「どういう事だ?」
「…好いてくれている事を嬉しく思う。だからこそ、私がいては珠紀はあやつの所に行けないし、あやつが宇賀谷に来るならば私の存在は野暮というものだ」
少し悲しそうで、でも拓磨と珠紀の幸せを願った言葉。

その姿が、過去の自分とかぶり、真弘は再びアリアの髪を撫でる。
過去の自分を慰めるように、悲しげな表情が吹き飛ぶように。

「何をするのだ」
乱された髪を押さえ怒鳴るアリアに、真弘は笑い返す。

「そういう事なら、買い物付き合ってやるって言ったんだよ」
「本当か?」
胸をそらした真弘の言葉に、アリアの表情が一気に華やいだ。

瞬間、高鳴った鼓動に真弘は懐かしさを覚えた。
珠紀を好きだった時と似た思い。

「…まさかな」
咄嗟に浮かんだ自嘲に対して問いかけてくるアリアに、真弘は手のひらで頭を遠ざけるようにして距離をとる。

胸に浮かんだ感情に、気づきたくなくて、気づかれたくもない。
けれど、柔らかな髪の感触と成長した姿が今更のように脳裏に焼き付けられる。

「他のやつらの迷惑になるから誰彼構わず声かけんじゃねぇぞ。仕方ねーから、この真弘様が特別に付き合ってやるんだ」
そうして思いを吹っ切るかのように歩き出した真弘に、
「待て。付き合うと言ったのに置いていくとは何事だ」
アリアは早足で背中を追いかけた。


* back *

別に続かないというのが最大のオチかと…(反省)
真アリはこんな距離感のような気がします
どっちも素直じゃないというか…
でも、辛い時とかは互いに手を差し伸べあってるんじゃないかなぁと
あと、俺様な真弘が書きたかったのです
ちょっと可愛く感じてきています、真弘さま(笑)
拓珠←真弘←アリア的関係からの発展で真アリは書いて行けたらなぁと思っています