1つを除く全てから (本編後・拓珠)



「珠紀、お前なぁ…」
安堵と同時に、文句の1つも言いたくなったのも仕方のない事。

「拓磨、どうしたの?」
そうして振り返った珠紀の笑顔に、拓磨はもう一度嘆息した。



「1人で山に入るなって言っただろ」
梅雨も近づき、暑くなりだした季節に走り回る事になった分も視線にこめて、拓磨は諌めるように珠紀を睨む。

「でも、美鶴ちゃんに言ってきたし、奥にも入ってないから」
平気だと言わんばかりの珠紀の様子に、
「美鶴に聞いたから俺はこっちに来たんだ。そもそも俺が言ってるのはそういう問題じゃない。いくら修行したからと言っても、お前がオボレガミに襲われた時に対処しきれる保証もないだろ」
拓磨は僅かに表情を歪めた。

「まぁ、無事で何よりだ」
そして表情を緩めて頭を撫でてきた拓磨に、
「ごめんね、心配かけて」
珠紀もそっと見つめ返す。

「少しは警戒心を持てと言ったんだ」
少々強めに小突かれた額を抑えつつ、
「でもね」
珠紀は嬉しそうに言葉を続ける。

「こう言ったら怒られるかもしれないけど。本当に困る前には拓磨が来てくれるんじゃないのかな?って思うから、あんまり心配してないの」
少し照れたような笑みで放たれた珠紀の言葉に、拓磨は目元を赤くしながら僅かに目を逸らした。

「お前な」
「それに、基本的に一緒にいるんだから、問題ないでしょ?」
突然繋がれた掌の熱に拓磨は僅かに驚くものの、人気のない森では恥ずかしいなどと振りほどく理由もない。

「バカ。なんで平然とそういう事言えるんだか不思議だな…」
少し呆れたような、照れを隠した言葉に、
「だって本当の事だから」
珠紀は更に嬉しそうに笑みを浮かべた。

「私も頑張るから。村とか、守るから。だから…」
「わかってる。守ってやるさ、絶対にな」
珠紀の瞳から逃げるように抱きしめれば、返ってくる抱擁に拓磨は決意を固くする。

返ってくる腕の力も、香りも、熱も、全てが拓磨の決意を固くする力になる。

しかし、それと同時に強く感じる思い。

「でも一応警戒心は持て」
拓磨はそっと珠紀との抱擁を緩める。

「なんで?」
「他の外敵全部からは守ってやるけど、俺自身から守ってやれる保証がないからだ」
そして、拓磨は珠紀の唇に喰らいつくように口付けた。


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緋色DS発売記念!!
短いですが、どうしても6月22日のうちにUPしたくて…