時を越えて (ED後・拓珠)



『すまない』
『すまなかった』

謝らないで、と何度心の中で繰り返しても、声にならないもどかしさ。

『代わりに…』

そうして伝えられた、罪の対価を払う言葉。
でも、そんな事がなくても私は願うのに。

『貴方の罪が許されますよう…』

そう、願うから。
これ以上、重い対価を払おうとしないで。

私はこれでいいから。
私は、この道がいいから。

貴方がこれから幸せに生きてくれれば、それだけで…。

だから、誓わないで。
これ以上、傷つかないで。

伝えたいのに、伝えられないのが自分が悲しい。

(愛して、いるから)

だからこそ、行ってしまった自分の所業こそ、許してもらわなければならないのに…。





「ごめんなさい…」
薄く開く事の出来た視界を、影が覆う。
緋色は見えない代わりに、彼の姿がはっきり見えた。

「ごめんなさい。私のせいで」
「珠紀…?」
不思議そうな顔で覗きこまれる。
『私』の名前を、呼んでくれているの…?
でも、もうだめみたい。
戻る事は、できないよう…。

「ずっと、傷つく道を進ませてしまった。私が、選ばせてしまった。だから、やめて。その道を、選ばないで」

目を閉じれば浮かんでくるようだった。
今ではない時、髪の短くなった彼が傷つく姿。

「これから先、気が遠くなるような長い間、守る道を選ばせてしまって、ごめんなさい…」
あの時守護者になる道を選んだから。
だから、また貴方は傷ついてしまった。

再び私の側にいてくれた貴方は、体中傷だらけにして私を守ってくれる。

そんな未来を、選んでほしくない。
愛する貴方に、傷ついてなんてほしくない。

「来世の貴方が、傷つくのが見えるよう…」

それが何より悲しくて。
それが何より苦しくて。

「ごめんなさい…」
そうして泣くことしか出来ない自分がなにより悔しい。

もっと伝えたい言葉があるのに。
もっと謝りたいのに。

…これ以上言葉が出てきそうにない。

また、世界が収束していく。

終わってしまう感覚に、身を委ねようとして…。




「珠紀!!」
大きく肩を揺さぶられ、目を覚ました。

「拓磨…?」
「ああ」
呼応するように呼びかければ、返ってきたのは安堵の声。

「何か、あったの?」
そう問いかけてから、状況を把握する。

抱きかかえられるようにして、顔を覗きこまれている状況が恥ずかしくてたまらない。

「ちょっ?!な、なに?!」
「何って…」
拓磨は心底呆れたような声になるけれど…わからないものはわからないんだから仕方がない。

「お前、自分が何言ってたか覚えてないのか…?」
再び不安そうな表情になった拓磨の手が、頬を撫でてくれる。

私、泣いてたの…?

「お前が、玉依姫になってた」
「え?私は玉依姫だよ?」
「そうじゃない…」
そうして紡がれた言葉は苦渋に満ちていて。

「玉依姫命が常世神を見てた。泣いて、謝られた。あの時みたいに…」

微かに逸らされた拓磨の視線から感じるのは、罪悪感。

私達が持つ、共通の記憶。
命が尽きようとしている玉依姫と、それを見取った常世神。

玉依姫と常世神の話。
…私達の前世の話。

あの時のように悲しみを集めた瞳が切なくて。

「ごめんね、拓磨。私寝惚けて…」
その場を取り繕うとした瞬間、視界が制服の黒で染まった。

「忘れるな」
耳元で意志を持って囁かれた言葉。

「俺は、自分の意志で守護者になったんだ。俺は、お前が二度と傷つかないように、何度生まれ変わっても守り抜くと決めて、守護者になったんだ。だから」
そうして紡がれる声に対して、私は抱きしめ返す事しかできないけど。

でも、前は出来なかった。
『愛してる』と伝える事も、彼の涙を拭う事もできなかったけど。

「お前が謝るな。俺は今も昔も後悔なんざした事はない」
「うん…」
今は、その言葉に対して抱きしめ返す事ができる。

「だから、いなくなるような事言うな。お前は玉依姫だけど、玉依姫じゃないんだからな」
「うん」

その抱き返した腕から伝わるといい。
側にいるって事を。
そう願いつつ、私はさらに腕に力をこめた。


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