しろいいき (キョンハル・シリアス)



ただひたすらに、外を見つめる。

手に食い込む柵などないかのように。
吐き出される白い息を気にもせず。

…まるで心がここにないかのように…。

屋上から、外を、地上を一心に見つめる。

それはなにかの覚悟を決めてしまったかのようで。


「ハルヒ」
声をかける事が場違いのように感じ、マフラーで口元を隠すようにしてキョンは呟いた。

それでも、広い屋上には小さすぎる声も、2人きりの場には十分のようで。

「あら、キョン」
あっさりと振り向き、今までの空気などなかったかのようなハルヒに、キョンは嘆息した。

この寒空の中、部室におらず、コートも置き去りにして、誰かを連れているわけでもなく…どこへ行ったのかと思い探してみればあっけない。

そして出たのが安堵の息であったのに対して、キョンはもう一度嘆息する。
突拍子もない行動がデフォルトである彼女に対して、いらない心配をした自分に対して…。

「…なによ」
キョンの様子に不思議がるハルヒに、
「特に用ってわけじゃないんだが…」
僅かに返事に詰まる。

しかし、視線があったのもその僅かだけで。

「まだ、戻らないのか?」
「もう少しここにいるわ」
キョンの問いに対して、ハルヒは視線を逸らした。

戻る事を拒否するかのような仕草。

自ら輪を外れるかのように、ただ傍観するなど、孤高などとかっこいいものじゃなく、ただ寂しいだけだ。
そして、それを受け入れたくて、来てほしくて待っている身としてはたまったものではない。

孤高を気取るなど、1人でいるなど望んでいないのに…。

ハルヒの態度に突き放されたような気分がして、キョンは口を開こうとする。
どこか繋がりを保っていたくて、ハルヒの関心を別の場所へなどもって行きたくなくて。

…どこへも行かれたくなくて。

「…見てるこっちが寒いんだよ」
一言、ようやく出た言葉は平凡なものだとキョンは感じていた。

それでも、ハルヒの視線が戻ってきた事にキョンは安堵する。

「キョンはひ弱ね。子供は風の子なのよ?これしきのことで…」
再び雰囲気をいつものように戻して笑うハルヒ。

しかし、制するかのようにハルヒの首にマフラーが巻き付けてやる。
ハルヒが弾かれたように顔を上げれば、いつの間にか距離を詰めていたキョンが、マフラーを外す流れて自身のコートのファスナーへ手をかける。

「だから、見てるこっちが寒いって言ってるだろ」
有無を言わさずにキョンはハルヒの肩へとコートをかけた。

キョンの熱と香りに包まれてしまったのを意識して、ハルヒの顔が赤くなった瞬間。
静かな空間に響いたくしゃみに、ハルヒは目を見開いてキョンを見た。

「寒いんなら別にいらないわよ。あたしは別に必要ないんだし…」
キョンの様子にハルヒが上着を脱ごうとするも、
「別に、いい」
キョンは制止するように上着の前を合わせてしまう。

そして、くしゃみをもう一つ。

「キョンの方が寒いんじゃない」
「長い時間外にいたお前に比べればましだ」
ハルヒの赤くなった手元を見ながら、両手で両腕を擦る。

それでも寒さが解消されるわけでもなく、キョンは小さく震えて白い息を吐き出した。

「…戻らないの?」
「どこかの意地っ張りが戻らないかぎりはな」
冷たい風を凌ごうと体を縮こませながら、キョンはハルヒをまっすぐに見据える。

「なんで、よ…」
戻る気配などまったくないキョンに、ハルヒは表情を僅かに悲しませた。

「なんでって…古泉のゲームに付き合うにはあいつは弱すぎて張り合いがない。長門の読書の邪魔はできんし、朝比奈さんはお前用に茶葉を選んでる最中で、俺はまだお茶にありつけない」
ハルヒの様子を気にした様子もなく、キョンは部室を思い浮べた。

頑張って運んだ暖房もある。
興味ない内容でよければ、キョンに色々語りたいような人ばかりで退屈しのぎにはなる。

けれど、やっぱり足りないもの。

「それに、団長様がいないと何にもならんだろ。団として」
「…愚問ね」
真っ白の息を吐きだして、寒さから指がかじかみ始めたキョンに、ハルヒは仁王立ちで宣言した。

「当たり前じゃないっ」
「そうか?」
「そうよ!今だってすぐにでも戻る気だったんだから!」
そして、キョンへと手を伸ばす。

「帰るわよ」
「別に立ち上がるのに支障はないぞ」
手を借りずに立ち上がりかけたキョンに、
「あんたの手も赤くなっちゃったじゃない。…風邪引いて、あたしのせいにされても困るから」
ハルヒは強制的に手を持っていく。

冷えきったのが改善されたわけでもない、むしろキョンの方が暖かそうな手に包まれる。

「平団員とはいえ、風邪で休むなんて言語道断なんだからね」
キョンのマフラーに顔を半分埋めて、しかし隠し切れない紅潮をハルヒに見つけて、
「はいはい」
適当に相づちを打つと、その手に引かれるままに歩きだした。


* back *


なんだかシリアスです
ハルヒが考え込んじゃって、「何も考えずにSOS団にいりゃいいんだ」と主張したいキョン、という感じです
ハルヒは団員ほど仲良くなった人が今までいないみたいですし、仲間の輪の中に入ることに時々戸惑いを覚えてるかも、思いまして

部室のみんなも各自の役割だからとかじゃなく心配してるといいです
古泉は詰め碁がまったく進んでないし、長門も心なしかゆっくり読んでて、朝比奈さんはあったかいお茶を入れる準備万端で