(キョンハル)
事前から予告されている避難訓練に何の意味があるのか。
一応緊急避難の状況を再現するためらしく、訓練がいつ開始されるかはわからず、突然流れる避難警報にあわせて避難するようにと数日前から念を押されて言われていれば、そこに緊急性などあるわけがない。
むしろ、常に教室中落ち着かない空気が漂っていたとキョンは実感していた。
そもそもキョンの場合、普段から授業に集中しているわけでもあるまいが…。
それはともかく、避難訓練を終え、近所の消防署の偉い人が避難訓練に対する総評を話し終え、キョンたちはようやく再び教室へと腰を押し付ける事ができた。
教室中、次の授業が潰れる事に対する喜びのみで避難訓練の意味など感じられない。
そんなざわめきが残る中、教師がビデオを片手に教室へと戻ってきた。
どうやら避難を実行するだけでは足りないらしく、これから加えてビデオによる学習があるらしい。
ビデオを片手に教師が内容の説明をする中、
「つまんないわねぇ…」
ぼやく声が聞こえて、キョンは小さく嘆息した。
教師の説明によれば、先ほど行った避難訓練に加えて、災害時の対応をまとめたアニメビデオであるらしい。
あまりの退屈が予想される内容に、キョンはもう1つ嘆息したくなるのを何とか抑えることに成功した。
ハルヒの意見には大いに賛同するものの、ここで声にして賛同するわけには行かないのだ。
もし、キョンが賛同すれば何が起こるかわからない。
また気付いたら閉鎖空間にいるなど真っ平ゴメンである。
そう思ったら結局嘆息を抑えきれず、1つつくとキョンは首だけでハルヒの方を向くようにした。
すでに突っ伏して、顔中に不機嫌が見て取れる。
「いつか参考になるかもしれないだろ?」
なんとか言い訳をひねり出したキョンの声に、
「だって、去年見て内容覚えてるもの。大した事ないわ」
ハルヒから返ってきた声はやはり不機嫌を含む。
「中学とは内容が違うかもしれないだろ?」
「一緒よ。まずこう始まるの、いい?」
そんなキョンの説得に、怒りさえ浮かぶようにハルヒが冒頭を説明した。
教師が更なる説明を加えている間に、ハルヒによる概要も終わり。
「窓際の生徒、カーテンを閉めて」
声に従い、カーテンを閉めれば教室はいつになく暗くなった。
「これじゃあ、小説も読めやしないし…」
そんな呟きを聞きつつも、キョンにとってはいい退屈しのぎであり睡眠時間であるビデオが再生される。
それは、ハルヒの説明通りの冒頭で、そしてキョンの予想通り、寝るに相応しい退屈なもの。
目の前のテレビが、無意味に映像を流す。
キョンにとって、その情報は1つも頭に入らない。
それを見続ける事は、退屈で不機嫌な作業に違いはない。
1つ嘆息すると、キョンは椅子を後ろの机にぶつかるまでに引く。
「何よ。せめて寝るしかないんだから邪魔しないで」
「俺だってこんなビデオ退屈なんだ。少し構ってくれ」
そして体を捻って肘を机に置いた。
すっかりビデオや昼寝から離れた、話をする体勢。
そして問いかけられた台詞に、
「ふん、仕方ないわ。しょうがないから構ってあげる。あんなビデオより役立つし面白い話がどれだけあると思ってるのかしらね。キョン、何か話しなさいよ」
ハルヒは人差し指でキョンの腕を弾く。
「これより面白いかはしらんがな…」
そんな期待の篭ったハルヒの視線に苦笑しつつ、キョンは何を話すべきか頭を捻り始めたのだった。
* back *
去年の今頃、WEB拍手で公開していたお話に加筆したものです。
…新しいものじゃなくてすみません…。
今脳内にあるネタを忘れないうちに書きたいと思いつつ…過去の拍手の作品もちまちま出していけたらなぁと思っています。