一枚の絵 (キョンハル前提キョン&谷口&国木田)



「写真できたぞ」
「谷口にしては仕事が早かったね」
「してはってなんだ」
谷口を出迎えた国木田の言葉に一瞬不快そうな顔に見せるも、今の谷口はそれを覆うほどの機嫌のよさで席についた。

「で、何をしてきたんだ?お前は」
谷口のテンションについていけないような低さで振り返ったキョンに、谷口は手にしていたものを突き出す。

「写真…?」
「おうよ。見ろって、普段とは違う非日常なスペシャルショットだ」
そうして紙袋の中から取り出したもの。

「わぁ、凄いね谷口」
「マラソン大会仕様の特別バージョンだぜ?」
女子生徒の体操服姿ばかりが収められた写真に、
「やれやれ…」
キョンは呆れたと言わんばかりの大きなため息をついた。



「なんだよ、キョン。つれないなぁ。これ見ろ、俺的ランキングでAの女子の写真だぜ」
机に広げた写真の中でも自慢のものであろう物を、谷口はキョンへと差し出す。

「俺は元を持ってるからな。ひろーい心でそれくらいはやったっていいぜ」
なにやら無駄に自慢げな谷口をよそに、キョンはそちらへと視線を向ける。

「まぁ、美人である事は確かだな」
しかし、キョンの反応はあまりに上がらなくて。

「なんだよ、ホントつまらないなお前。涼宮が中心で生活回ってる以上、他の女子には関心ないってか?」
「違う、そうじゃない。お前のテンションにはついていけないだけだ」
今度は逆に谷口が呆れたようなため息をこぼし、キョンの反論には耳を貸さない。

「そんなキョンにはこれをやるよ」
そう言って谷口が差し出した一枚の写真。

「被写体はともかく、中々悪くないものだからな」
ハルヒが写った写真へと、キョンは視線を向けた。

「谷口、お前だって十分物好きだ」
頬杖をつきながら、キョンはぼんやりとその写真を手にし、
「やっぱり涼宮さん美人だよね」
写真を覗きこんだ国木田も感想を洩らす。

「まぁな、涼宮は見た目は悪くないからな」
谷口のボヤキを聞きつつも、キョンは写真を眺め続けた。

四角の中に収められた絵。
動きもしない、一般的に言って高校生の中ではかなりの部類に入るだろう美少女。

過去にキョン自身思った事があった。
谷口の言う通り、ハルヒは黙って一枚の絵にしておくのなら上等の被写体であろうと。

でも…。

「なんか違うな…」
キョンの小さな呟きに、国木田が首を傾げる。

「何か言った?」
「いーや」
国木田の言葉に対して誤魔化すように返事をして、キョンは再び写真へと目をやった。

一枚の絵として、鑑賞するのは悪くない。
悪くない、が。

それでも持っている感情に気づいてしまった事を、キョンは否定し切れなかった。

「そういうわけにも行かないんだろうな」
黙って見ているだけなどできるはずもない。
動いて、自分を巻き込んで行動してこそ涼宮ハルヒなのだとキョンは自覚してしまっている。

『この世界』を選んだ人間として…。

「どうした?キョン。いるならその写真やるぜ」
そうして谷口が示した手に、
「こんなものいらん」
キョンはあっさりと写真をつき返した。


* back *


涼宮ハルヒの約束をやっていて思い浮かんだ話です。
キョン、谷口、国木田のトリオが結構好きな気がしています。
が、別にゲームのネタバレをしているわけでもなんでもないのですが…。
ゲーム内のキョンの一言を元に書きました。

最後の一言、キョンと谷口では解釈が違うといいなぁと思いつつ…わかりづらいのでここでこっそり補完を。
谷口は「涼宮のものなんか」と言う意味で、キョンは「写真なんか」と言う意味で最後の一言に関して思っていてもらえればなぁと…。