意義 (キョンハル)



「さぁ、今日もやるわよっ!」
あからさまに期待の篭った笑顔で、ハルヒが楊枝を差し出す。

いつもの日曜日。
…これを最早『いつもの日常』と表現できる自分は順応性が高いのか、すでに諦めの境地なのか。
きっと後者に違いない、うん。

「ほら、キョン!早く引きなさいよ!」

差し出された楊枝に、俺は手を伸ばした。
先は染まっていなくて。

「おや、僕とは別チームですね。残念です」

笑顔で視線の高さに持つ古泉の楊枝は赤い。
お前と一緒でない事に残念と言う思念の欠片もないがな。

「私もそっちですね」
「…私も同じ」

そうしていつもの女神のように素敵な笑みと、平坦な声に視線をやれば、そっちも赤くて…。

「…俺は、ハルヒとか」
「…なによ、不満なわけ?!」

つい出たコメントにハルヒの機嫌を悪くさせるオチだけがついた…。

「別にそうは言ってないだろ」
「じゃあ、何よ!」
「事実を確認しただけだ」
「…そう言う事にしておいてあげるわ」

我が団長のご立腹はどうやら落ち着いたようで、両手をついて立ち上がっていたところから腰を下ろす。

「さて、とっとと行くとするか…」
そうしてレシートを手に取るクセがついたのはなんとも言えず悲しい。
財布は軽くなる一方で、いい加減古泉にバイトでも紹介してもらうべきだろうか。
…いや、ロクな目に会わない事はわかっているからあくまで冗談だ。

「そんな事あんたに言われなくてもわかってるわ!ほら、行きましょ!」
元気に立ち上がったハルヒに続いて、俺達は相変わらずの不思議探検に出かける羽目になった。



「で、どこに行くんだ?」
古泉たちと別れた人混みの中で、問いかける。

「んー…とりあえず歩きましょ」
そんなにアバウトなのかよ。

「何言ってるのよ!情報は足で集めるものなのよっ!」
…それは探偵小説か刑事ものの見すぎだ。

「ほら、キョン!置いてくわよ!」
そうして歩き出したハルヒに、俺は結局黙ってついていくしかないのだ。



前言の宣言通り、ハルヒが取った行動はただひたすら歩くのみ、である。
この行動に意味を見出すのは難しい気がするぞ…?
…いや、最初からこの行動に意味はないのは承知だが…。

「キョン!こっちきて!」
…どうして目的地がそこになるのだ?と問いかけたくなる俺を、誰も責めたりはしないだろう。

「ハルヒ、お前な…」
「何よ、ちょっとくらい付き合ってくれたっていいじゃない」
不思議探索に付き合ってる時点で十分付き合ってるだろ。

「違うわよ、これはこれ!不思議探索はSOS団の活動だもの」
じゃあ、活動はしなくていいのか?

「たまには息抜きも必要よ。行きましょ、キョン!」
そうして俺は、なにやらデパートへと引っ張られていった。

…いや、これは表現が不適切だったな。

デパートへ行き、アクセサリー屋へ連れて行かれ、明らかに女の子向けの店に連れて行かれて気まずい思いをし…。

なんなんだ、一体…。

しかし、ただの不思議探索をさせられるよりも楽しい事は事実で。

「ほら、早くしないと!」
まるで楽しみひとつ逃すまいと急ぎ足になっているハルヒの喜びようは、こちらにも伝わってくるから…。

まぁ、いいとするか…。

「ちょっとお腹すかない?クレープ食べましょ!クレープ!」
「…奢らないぞ」
「何言ってるのよ、そこまでは頼まないわよ!」
…じゃあ、普段からもう少し控えてくれ…。

「そんなことより早く!」
そうしてハルヒが駆け出そうとして。

「ハルヒ!」
俺はギリギリの場所でハルヒの腕を掴んだ。

「…すみません…」
わき見をしていたハルヒは気付かなかったようだが、危うくぶつかりそうになったカップルに俺は頭を下げる。

「ったく。よそ見してるからだ」
「だって…」
微かに落ち込んだ様子のハルヒ。

「ほら、行くぞ」
らしくない落ち込み方をすると、こちらの調子も狂う。
かと言って、無責任に発破をかけたらまた何をやらかすやら。

…しかたなく、俺はハルヒの手を取る事にした。

「ちょ…キョン?!」
わけのわからない様子のハルヒを、クレープ屋へと引っ張っていく。

「食うんじゃないのか?」
「た、食べるけど…」
「なら行くぞ。逃げやしないだろうけど、俺もなんだか食いたくなってきたからな」
そう、ただそれだけ。

ハルヒが暴走しないようにするためと、俺自身が甘いものを食いたくなっただけだ。

「そ、そうよね。行きましょ、キョン!」
そうして元の笑みを取り戻して逆に引っ張り出したハルヒを見ながら、俺は結局発破をかけたことを小さく後悔しつつ、振り回される覚悟を決める事にした。


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キョン至上主義な管理人なので…ついついキョンを優位に…。