1人勝ち (キョンハル+SOS団・誕生日ネタ)



「今度の放課後、お時間はよろしいですか?」
馬鹿丁寧な口調で、問いかけてくるのは我らがSOS団副団長。

…おかしいだろ。
こういう場面で何らかの提案をするのはハルヒの役目で、それこそ突拍子もないそれに先回りでお膳立てなど出来るはずがない。
いくらこの古泉でも、だ。

「どんな用事だ?閉鎖空間へなら行かないぞ」
人生ゲームのコマを進めつつ、顔も見ずに返事をする。
お、マイホームゲットだ。

「いえ、その用事ではありませんからご安心を。ただ、涼宮さんの誕生日パーティを、と思いまして」
そうしてどこまでも爽やかな笑顔の古泉に、
「…は?」
俺は返す言葉もなかった。





「サプライズパーティですよ。本当ならできるだけ秘密にした方がばれる危険性は減るのですが、あなたにも用意していただかなくてはいけないものがありますから」
お前の台詞はどうしてそう長くなるんだ、と突っ込みを入れたくなった気持ちはさておき。

「で、俺に何をしろと?」
「それはもちろん…」
満面の笑みを浮かべた古泉に、いっそ閉鎖空間への招待を受けた方が楽なのではないかと後悔する羽目になった…。


自分にとって異性に当たる人間宛へのプレゼントなど、妹か母親か…祖母ぐらいしか考えたことがなかった。
そして、その過去贈ってきた人物へは『身内から』という無意識の加点がつくもの。
よって、品物よりも真心、などという無茶も多少通用するのだが…そうはいかないのが我らが団長、涼宮ハルヒであろう。

『各自、プレゼントを用意すると言う事になっていますので、あなたも涼宮さんへのプレゼントを用意しておいてくださいね』

…思い出しただけでも、どうして断れなかったのか不思議な古泉の言葉である。
いや、もし断ってハルヒにばれた瞬間の方が恐ろしいのかもしれないが…。
なにを要求されるかわかったもんじゃない。

というものの、思いつくはずもなく…。
結局、無難なものに落ち着くしかないのが現状だ。 俺の財布事情と思考の限度ってヤツを理解してほしいね。

そして、あっという間に古泉による計画の日を向かえ…。

「おめでとうございます、涼宮さん」
いつの間にか用意された会場に、俺は小さく嘆息するしかなかった。

朝比奈さん手製らしき料理の数々を用意したのはよしとしよう。
むしろ歓迎だ。
けれども、長門、三角帽を被ったまま淡々と本を読む図は異様だ。
古泉も一応見た目だけはいいんだから、もう少し見た目を気にしたらどうだ?
ハルヒのため、という忠誠心はいいかもしれないが、女子が泣くぞ。

「…」
そんな中、ハルヒが表情を微かに白黒させる。
お、意外だったのか?
…きっと、すぐに怒ったような顔になるに違いない。

「こういう企画ならあたしも率先して参加したかったのに!」
予想通りに拗ねたような怒ったような表情を浮かべる。
ハルヒが素直に喜べるはずがないもんな…。

「なによ!言いたい事あるなら言えば?!」
そう怒った顔だって、照れ隠しの場繋ぎなのは最早承知の上だ。

「いーや」
「なんなのよっ」
「まぁまぁ。それよりも今回のメインイベントへと進みましょうか」
そっぽを向いてしまったハルヒに、今回の企画者で進行役の古泉が割ってはいる。
それが正解だろう。
進行しそうになかったからな。

「我々から、プレゼントがあるのですよ。1人ずつ用意したので、受け取っていただけますか?」
そうしてにこやかに笑った古泉に、俺は大きく嘆息したいのを何とか我慢するのが精一杯だった。

なんていったって、ここ数日、頭を悩ませられ続けた問題の代物だ。

「それでは僭越ながら僕から…」
こうして、ハルヒへのプレゼント授与が始まったのである…。

「何かしら」
感動の面持ちでハルヒが包装をあけていく。
お、意外と大事にするんだな…。

「だって、包装用紙綺麗なんだもの。捨てるなんてもったいないじゃない」
…ああ、そうかい。
女子はそんなもんだよな…。

「ありがとう、古泉君!素敵なフォトフレームだわ!」
キラキラと瞳を輝かせたハルヒが持つのは、ガラス製のフォトフレームだ。

「SOS団の写真を入れておきました。記念に、と思いまして」
「いいわね!」
ご満悦そうに、フォトフレームを見回す。

「えっと…次はわたしからなんですけど…」
いそいそとハルヒの前に向かったのは朝比奈さんだ。
どうやら二番手らしい。

「とてもいい香りのお茶を見つけて…涼宮さんにと思って…」
可愛らしく緊張からか頬を染めて差し出されるのは、やっぱり朝比奈さんから差し出されるに相応しい可愛らしい缶だ。

「どれどれ…早速入れてちょうだい!」
「はい、ただいま…!」
満足したらしいハルヒの様子に、朝比奈さんは嬉しさから目を潤ませてお茶の準備へと取り掛かる。
本当に、可愛らしい様子だ。

「私から…」
朝比奈さんがお茶に行っている間に、長門から差し出された本は…おい、怪現象系かよ。

「ん?まぁ、いいわ。ありがとう!有希」
ハルヒも意図を掴みかねつつ本を受け取っていた。

おい、長門。
あんな本ハルヒにやって平気なのかよ。
あの中に書いてある事実行しようとか言われたら困るぞ。

「…問題ない。記述は功名だが、起きている現象は有名。涼宮ハルヒの関心には至らない。あくまで書物として勧めただけ」

すれ違いざまの長門の台詞に安心する。
まぁ、長門が言うのなら大丈夫だろう。

「おそらく」

…その言葉を信じるぜ。

そして、そんな安心もつかの間…。

「では、次にお願いしますよ」
なんて声と共に背中を押されてしまった。

ったく、押してくれなくてもいけるというのに…。

「あら、キョンも用意してくれたの?」
不思議そうな顔に、
「なんだ。意外か?」
ついついこちらも不思議に思う。

「…べ、別にそうじゃないけど…」
視線を逸らしたハルヒは小さく呟く。

「だって、教室じゃ何にも言わなかったし…」
「古泉がハルヒを驚かせようって言い出してな」
事情を説明しつつ、ポケットを探った。

おお、あった。

「俺からはこれ。いっとくが、大したものじゃないからな」
包みからして小さいのだから期待する事もないとは思うが。

「な、なによ…」
そうして包装が解かれていくのはなにやら緊張する。

開いて出てきたのか、小さな髪飾りたち。

…善処したと言ってくれ。
これ以外に思い浮かばないし、金をかけることも出来るはずなかったんだからな。
みんなにおごりまくってるせいで、俺の財布は軽いんだ。

「これ、キョンが選んだの…?」
「ああ。お前、髪切る前はいろいろやってたなと思ってな」
マジマジと見つめているハルヒを見ながら、懐かしい光景を思い出す。

入学当初のハルヒの髪型は本当にすさまじかったからな。
…それがそこそこにあってもいたのは、こいつの黙ってれば整った容姿のためだろうか。

そして、あげてから気付いた。

「言い忘れてたが」

古泉に言われたプレゼントだけで頭が一杯で忘れていたな。

「誕生日おめでとう、ハルヒ」

キリストの生まれた日とか正月みたいに騒ぎはしないし、する気もないが、めでたい日だからな。

「…ありがと、キョン」

そうして俺の贈り物を持ったまま、ゆっくり笑ったハルヒに、俺もなにやら嬉しくなって頬が笑みを形作ったのを自覚した。


だからこそ、その時の古泉達の会話など、聞く事はできなかったのだ。





「プレゼント大会は彼の1人勝ち、ですね」
「…嬉しそうですね、涼宮さん」
「明らかに感情が我々とは異なっている」
そうして、
「まぁ、内容如何ではなく、涼宮さんにとっては彼から贈られる事が一番のプレゼントなわけですから…我々が敵う訳がなかったのですけれどね」
古泉が締めくくった事など、知るよしもなかったのだ。


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前々から書いてたプレゼント話だったんですが… 実は、今日は自分の誕生日だったため、誕生日に託けて完成させました。
ああ、また1つ年を取ってしまった…