夢見 (キョンハル)



「…どこから持ってきたんだ?これは…」
キョンがそう大きく嘆息したくなるほど。

SOS団の部屋に、ソファーが鎮座していた。

「長門、これはどういう…」
いつもの椅子を向けば、そこに姿はなく…。

「…俺が一番乗りか…」
キョンは小さく嘆息すると長テーブルへと鞄を放り投げた。

「それにしても…」
いつも雑用を仰せつかるはずの自分は、このソファーの存在を知らない。

まさか、古泉が運んできたのだろうかと思い…。

次の瞬間、キョンは頭に手をやり、頭を振った。

「まさかな」
そもそも、どういう理屈で古泉に頼む事になったのかもわからないのだ。

…どうして自分じゃない?

そんな思考が浮かんできて、
「だー!」
キョンは胸に溜まった気持ちを吐き出すべく、声をあげるとソファーに深く座り込んだ。

「こんな重いもん、運ばずにすんでよかったじゃねぇか」
口に出してまで、自分に言い聞かす。

…ハルヒに選ばれなかったのが自分でない事が悔しい。

そんな事を思いつつキョンは窓の外を見た。

日差しの熱を黒いソファーが吸い込んでいく。
耳障りではない程度に窓に阻まれて聞こえるどこかの部活の音や声。

その日差しに囲まれて、キョンは大きくあくびをした。





静かに瞼が震える。
そして微かに目を開けた世界がオレンジ色に染まっていて、キョンは慌てて飛び起きた。

そこまでゆっくり眠ってしまったのだろうか、ハルヒに悪戯されなかったのだろうかと慌てて自分を確認しようとして、
「?!」
キョンは肩にかかっていた重みに飛び起きかける。

さらには慌てて周りを見回し、その場に誰もいないことにも気付いた。

「…気を利かせたつもりか…?」
キョンの肩に寄りかかり、ハルヒが静かに寝息を立てる。

「うーん…」
キョンが起きたせいで心地よい場所がずれたのか、ハルヒが身じろぎをするも、すぐに寝息は元に戻って。

「何してるんだ…」
そう嘆息しつつ、肩を動かさないように細心の注意をしつつキョンはその顔を覗きこんだ。

整った顔立ち。
黙っていれば超一級の美少女だ。
いつもキラキラと大きな瞳を輝かせて、自分達を振り回す団長。

…それに悪い気がしなくなったのはいつからだろう。
積極的に付き合おうと思ったのは…?

もう1つ息を吐いて、キョンはその思考をストップさせた。

考えても意味はない。
それこそ人生の無駄だ。

涼宮ハルヒにこうして肩を貸している自分、と言うのも悪い気はしていないのだから…。


「よっ」
何とか手を伸ばし、椅子にかかっていたコートを手に取る。

まだ冬。
セーラー服だけでは寒すぎるだろうから。

ハルヒが起きるまで待つのも悪くないと思い、キョンは再び目を閉じようとする。

「…なによ、ジョン…」
そうして聞こえたハルヒの寝言に、
「俺は何をしてるんだ…?」
まだハルヒには言えない切り札を口にし苦笑しつつ、
「…ここ、閉鎖空間だったりしないよな…?」
そんな事をぼんやり考えながら、キョンは再び意識を放り投げた。


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