差し引きゼロ (キョンハル)



「ちょっと、キョン?!何やってんのよ!!」
あいかわらず遠慮なしにドアが開く。
お前、少しは静かにドアを開けられないのか。

「げ、涼宮…」
谷口のひるんだような声。

そして目の前から谷口が退いたと思った瞬間、
「なにやってんのって聞いてんでしょ?!」
予想の通り、ネクタイが引っ張られた。

…予想していても苦しいのはわかっていたのだからよければよかった。
しかし、不機嫌な状態のハルヒに逆らうのも恐ろしい。

「何って…」
「何よ。これ、一昨日までの宿題じゃない」
ハルヒの視線の先には俺の作業途中の宿題。

「もしかして、こんなもののためにSOS団をサボったわけ?罰金ね、今度の喫茶店はキョンのおごりに決定」
SOS団をサボって、この団長様の怒りに触れるとは思っていたし、おごりもいつもの事だ。

しかし

「今回ばかりはな、そうも言ってられないんだ」
大きく出てくるため息。
そりゃ、ため息もつきたくなる。

…いくら自分の所為とはいえな…



「はぁ?!ばっかじゃないの?!」

そう大きな声で言われずともわかっているとも。

「しかたないだろ。成績やらないとまで言ってきたんだ」
「そんな事、できる勇気あるわけないじゃない。大学じゃあるまいし、教師にそこまでの権限はないわ」
「あの先生、この前嫁と相当喧嘩したらしくてな。機嫌が悪いんだってよ」
呆れを表情に表したハルヒに谷口からのフォローなのか自身の愚痴なのか…。

「明日までに出さないと、態度不だと」
「ったく…」

そして目の前に影が落ちる。
今まで谷口が座っていた席に、本来の主が。

「いい?あたしが教えるんだからパーフェクトにやらなきゃだめよ。先生の度肝を抜いてやらなきゃ。機嫌を回復しておかないとね。もし補習や追試なんかになって、SOS団の活動に支障きたしたらゆるさないんだから」
頬を膨らませているように見えるが、その表情は微かに笑っていて…教える側の余裕か?

しかし、その教え方は確かにわかりやすくて。

「ハルヒ」
「何?手止めてないでさっさとやっちゃいなさいよ」
手を止めては怒られるかもしれないが。

「今度の日曜、お礼にクレープ奢る」
「ホント?!じゃあ、苺とアイスのね!」
その表情が嬉しそうに変わったから。

今度の探索の際、くじで長門にハルヒと俺で組めるように操作の頼みと、きっと横でバカみたいな顔してる谷口への言い訳は俺の中でチャラにしてやろうと思う。



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