enviable position (消失後・キョンハル前提SOS団)



いつもの日常。
いつものように俺の足は何でかSOS団の城と貸したこの部室に向かう。

いや、理由はあるのだ。

「あ、キョンくん」
「こんにちは、朝比奈さん」
そうして迎えてくれた姿に、心の安らぎを得るために違いない。
自分が意識せずとも、足がここに向かうとは、俺の体も素直になったものだ。

「長門も元気か?」
「…元気」
本から視線1つあげる事ない長門の声が、いつもの長門だと伝えてくれる。

「そっか」
「はい、キョン君。寒いから、暖まってね」
語尾に♪マークが見えそうな勢いの…いや、見えるに違いない朝比奈さんの手によって入れられたお茶をありがたーく頂きつつ、俺は部室を見回した。

「涼宮さんは?」
「日直なので遅れてきますよ」
「そうですか」
そうして口元に手を当て空を見上げている朝比奈さんは、ハルヒが来る時間帯でも考えているのだろうか。
つくづくメイドとして、お茶酌み係としてスキルをあげていっている。

…それでいいんですか、未来人…と思わぬ事もないが、まぁ、そのメイド姿が愛らしく、心のオアシスとなっているのだからよい事にしよう…。

そしてそれをぶち壊すかのように
「やぁ、こんにちは」
部室のドアが、開いた。

爽やかを体現した笑顔。

「涼宮さんはまだのようですね」
「日直だそうですよ」
「そうですか」
古泉の質問に何故か朝比奈さんが答え…って、お前朝比奈さんに愛想よすぎやしないか。

「それでは、涼宮さんがいらっしゃるまで続きをやりませんか?」

差し出してきたのは人生ゲーム。
そういえば途中だったが、俺は途中経過なんざ憶えてないぞ。

「大丈夫です、メモはばっちりとってあります」

お前はそんなにも人生ゲームが好きだったか。

「もしかしたら勝てるかもしれないゲームには勝ちたいだけですよ」

それでなくてもお前はゲームはからっきしだからな。

「手痛いお言葉で。で、どうです?」

あくまでも崩れない笑顔に、
「遠慮する」
そう言って、机に突っ伏して逃げるしかない。

…これは逃げなのだ。
自分自身からの…

悔しかった。
なによりハルヒに会いたかった。
会えなかったたった数日が地獄だった。

…そんな思い、お前はしらないだろ。

ここにいる人たちが知るはずない。
長門以外…ではあるが…。

それでも、知らないのだとしても…あそこにいたお前は、もっと知らない。

涼宮ハルヒの側にいられない地獄を、知らないんだ。

「…いいな、お前は」

馬鹿な事を口にしたのはわかってる。
ドタバタ騒ぎのこちらを選んだからと言って、自分から大きな面倒を引き受ける事はないのに。

俺は決してマゾではない。

けれど、口にせずにはいられなかった。

間違いなく、ハルヒの隣にいる。
望まれて、望む力を与えられて。
与えられていなかったあの世界でも、お前はハルヒの隣にいただろう?

俺は、いなかったというのに…

あそこは、俺の場所だろ…


勝手な言い分だって、わかってる
それでも…

「なんで、お前なんだよ…」

顔をあげずともわかっている。
きっと、朝比奈さんも古泉も不思議そうな顔をしている。
朝比奈さんに至ってはオロオロしているかもしれない。

それでも…

この場では、癒せない痛み。
まだこの場では、足りない。

絶対的な、ものが…





「おっまたせー!もう、なんであんなに用事押し付けられなきゃいけないのかしら…。みくるちゃん、お茶。キョン!寝てないで起きなさい!!」

そして入ってくる横暴団長。

その声に、無駄に涙が出そうになった。



この声に呼ばれたくて…それが何よりの理由…

「今日はね…」

そうして話し始めたハルヒの提案。
きっと被害を被るのは俺と朝比奈さんに違いないが…。

悪いな古泉。
お前がどれだけハルヒを好きだろうと、1人の人間として好きだろうと。

「あのな、ハルヒ」

この役は、もう2度とやらないから。


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